今回のライヴでは、久しぶりに「島建てシンゴ」を上演します。

シーサーズ「沖永良部島の創世神話 島建てシンゴ」

映紙芝居付きCD/27min/2013年8月リリース/定価2500円(税別)発売中

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南の島のユタ(巫女)が呪詞として伝えついだ島建て(創世)の物語を、唯一残された音源を頼りにシーサーズが長年構想をあたため復元し楽曲化を試み、2013年にリリースした映像紙芝居(アニメーション・ムービー)付CD。

3.11後の世を問い、失われた人々の営みの再生を願い、神話をウタウ。

*ジャケ写真は、2011年、旧暦八月十五夜の月夜の沖永良部島・ウジジ海岸(撮影/平沢千秋)

 

●あらすじ

 東の聖地で、石の王と金の君の間にひとりの男の子が生まれました。父は石になり、母は金になってしまったので名前をつけてもらえませんでした。男の子は名前が欲しいと、天に上ってティルディダガナシ(太陽神)にお願いします。

 ティルティダガナシは、男の子を「島クブタ国クブタ」と名付けます。島と国が欲しいという島クブタ国クブタに、ニルヤハナヤに行くように言います。

 ニルヤハナヤで島クブタ国クブタはニルヤの大主に会い、「島クブタ国クブタ」と名前をもらい、教えられたとおりに島をつくっていきます。

 はじめは波のかぶる浮き島。そこに島釘をうち、島を安定させ、波垣をつくり、泉川をつくり、鎮守の嶽アムトを建て、実のなる木を植えました。

 島と国はできたので、ティダガナシから「人種(チュダニ)」をもらいますが、三年たっても増えていきません。女の家を風下に置き、風で交合させ、人間が見事に生まれました。しかし、食べるものがありません。

 島クブタ国クブタは稲の種をもらいにニルヤハナヤに行きますが、ニルヤの大主は「まだ初穂祭が済んでいない」との理由で分けてくれません。その時、稲の種をネズミがこっそり盗んでしまい、ニルヤの大主の怒りをかって打ち殺されてしまいます。

 ティダガナシはクシントーバルアミントーバルで死んでいる島クブタ国クブタを見つけます。哀れに思ったティダガナシが島クブタ国クブタを生き返らせて、島クブタ国クブタは改めてニルヤハナヤに行き、初穂祭の済んだ稲の種をもらい、育てかたを伝えます。収穫したら御初は神々、海山墓、嶽アムト、先祖、竃神、火之神に奉り、その残りを人間がいただいて命を生きるのです。

 

●私たちが暴挙におよんだ理由。

 「島建てシンゴ」は沖永良部島で代々ユタ(口寄せ・託宣・祈願・治病を行う沖縄・奄美の民間巫女)を営んでいた家に古くから伝えられた呪詞です。ユタでもない者が神聖な呪詞をうたうというのは、はっきり言うととんでもない暴挙です。私たちがその暴挙に及んだ経緯を話したいと思います。

 10年以上前のこと、「島建てシンゴ」最後の伝承者による録音テープが知名町役場に残されており、聴かせてもらいました。第一印象は、「これはウタ? それとも語り?」でした。リズムも音階も不明瞭で、韻律をもった言葉が流れるように続きます。シャーマンによる世界創造の物語、「島建てシンゴ」は、さまざまな祈願のあとに、祈願成就のためにうたわれていたということ。神話を語り再現することで霊力が発現し、願いもかなうと考えられたのでしょう。  

 それから時が経った2011年3月11日、東日本大震災が起きました。地震と津波によってたくさんの命が一瞬に奪われ、その後の原発事故も加わって人々の暮らしも多く失われました。天災と放射能の前に人間は無力です。被災者だけでなくすべての人が、この後をどのように生きるべきかをつきつけられたといってもいいでしょう。

 その時にふっと浮かんだのが「島建てシンゴ」でした。昔の島人が生きてきた神話的世界観を多くの人々知ってもらいたい、という気持ちはありましたが、この時ばかりは、簡単に言うと「シンゴ」の力を借りたい!と思ったのでした。どのように私たちは暮らしを取り戻していくのか、を考えたときに自分にとって必要なのが「シンゴ」だったのです。

 私たちは録音をもとに、テキストと照合しながら全体と整理し、楽曲として楽しめるように三線(サンシル)やバイオリンも加えアレンジをしました。言葉の内容がわかるように翻訳をつけて、物語を絵にしてスライドショウ化しました。

 言葉にはコトダマ(言霊)がやどります。コトダマはただ普通に「語る」よりも、「うたう」ほうがさらに霊力が強くなるといいます。 繰り返される単調なリズムと音階によって、神話の世界に引きづりこまれていくような気分になることがあります。「島建てシンゴ」を見ていただいた皆さんも、きっとこの神話世界に共感していただけるものと思います。

 本来はユタがひっそりと祈願にうたうカミガタリです。神さまにお許しを願いながら上演させていただくように務めています。

 

文=持田明美(シーサーズ)

チャランケ祭2014特別プログラム紹介文より